カスハラ防止法、10月1日施行——企業は何を義務づけられるのか

2026年10月1日、労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号/2025年6月11日公布)が施行され、カスタマーハラスメント(カスハラ)への防止措置が事業主の義務になります。対象は企業規模を問いません。本稿では、何が義務づけられるのか、録音・録画はどう位置づけられているのか、そしてAIに何ができるのかを、現場実装の視点から整理します。

何が変わるのか——「対策するかどうか」は選べなくなる

これまでカスハラ対応は、各社の任意の取り組みでした。施行後は、雇用管理上の措置として、事業主に体制の整備が求められます。厚生労働省はカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年2月26日告示)を定めており、事業主の方針の明確化と周知、相談に応じる体制の整備、事案が生じた際の適切な対応といった枠組みが示されています。詳細は同指針をご確認ください。

重要なのは、これが「顧客を疑うための制度」ではないことです。理不尽な要求や暴言から働く人を守り、同時に、正当なご意見・クレームには誠実に応える。その線引きを組織として運用できる状態をつくることが、制度の趣旨です。

録音・録画は義務なのか

義務ではありません。指針は、事案対応の例として録音・録画に触れていますが、特定の機器の設置を義務づけるものではありません。ただし実務では、この点こそが最大の難所になります。カスハラ対応の多くは「言った・言わない」に行き着くからです。事実が確認できなければ、働く人を守ることも、顧客の正当な言い分を認めることもできません。記録と客観化の仕組みは、義務だから入れるものではなく、現場を一人にしないために要るものです。

AIにできるのは「判断」ではなく「客観化」

誤解のないように明確にします。AIは、ハラスメントの違法性を確定しません。懲戒や法的判断を代行することもありません。最終判断は、人と組織が行います。

AIが支援できるのは、その手前です。長時間の映像・音声の中から、責任者が確認すべき区間を見つけやすくする。事案の前後を含めて記録を保全する。関係者が同じ材料を見て話せる状態をつくる。つまり、感情的になりやすい局面に、客観的な確認材料を持ち込むことです。

当社はこの領域を、衣服に装着する装置による検知・記録の特許技術(特許第7728631号)と、既設カメラ・音声データを活用する受託開発の二本立てで支援しています。カメラで捉え、エッジAIが現場で判断し、必要な記録だけを保全する——私たちが取り組んできたフィジカルAIの、最初の社会実装のひとつだと考えています。

10月1日までに、何から始めるか

まず、自社の対応方針と相談窓口を明文化し、現場に周知すること。これが制度対応の土台です。そのうえで、事案が起きたときに事実を確認できる手段があるかを点検してください。既設の防犯カメラ、通話録音、対面現場の記録手段。いまある設備で何が確認でき、何が確認できないのか。その空白が見えたら、埋め方をご相談ください。学習データや完成した仕様がない段階からで構いません。